Despite Recent Increases, Overall Land Prices will Continue to Slide
東京の路線価、13年ぶり上昇――「再開発マジック」は続かず(ニュースの理由)
2005/08/09, , 日本経済新聞 夕刊, 2ページ, 有, 1156文字
東京都の路線価が十三年ぶりに上昇に転じた。上昇地点は名古屋の中心部などにも広がっている。都市再開発で土地の収益力があがり、投資マネーが流れ込んでいるからだ。ただ、再開発による地価押し上げ効果は一時的で、全国での地価上昇にはつながらない。
一八・二%も地価が上がった東京・丸の内の「丸ビル」前。同ビルに次いで丸の内オアゾが完成し、さらに新丸ビルの建設が進む。一平方メートル当たり一千万円前後の高地価ゾーン丸の内、大手町での再開発ラッシュが地価を押し上げている。
丸の内では、ビルの敷地面積に対する床面積の割合を示す容積率の上限はもともと一〇〇〇%だった。ところが丸ビルなどは都市再開発に伴う規制緩和策をフルに生かし三割以上も容積率を高めている。一平方メートル当たりの利用率が三割以上高まるので、土地が生み出す収益を基に決まる地価が上昇する仕組みだ。いわば「再開発マジック」である。
再開発ビルが建てばこのマジックが機能して地価が上がるが、次の年には容積率は増えないので地価の押し上げ効果はなくなる。丸ビル前のように付近で再開発が相次げば相乗効果が期待できる。しかし、地区の再開発計画が一巡すると、それも期待できなくなる。
再開発が進む東京・六本木近くの防衛庁跡地前の路線価は五%程度上がっているが、かつて再開発の代表例と言われたアークヒルズ前の上昇率は一%程度にすぎない。一九九〇年代後半に大型開発があって地価が上がった新宿駅南口の路線価は横ばいにとどまる。
そうした事例を見ると容積率の緩和は地価の一時的なカンフル剤にすぎないことがわかる。カンフル剤をあちこちにうつことによって全体的な地価の上昇をようやく取り戻したのが東京の現状だ。東京の地価上昇はあと数年続いてもいずれ息切れする。拡大する土地需要に引っ張られた八〇年代までの右肩上がりの地価上昇とはメカニズムが異なっているのだ。
しかも、東京で二〇〇八年までに完成する延べ床面積が一万坪以上の大規模賃貸オフィスは七十棟近く。過剰供給になった上に個々のビルが容積率を増やすと、テナントで埋まらなくなる。埋めようとすると賃料の引き下げが必要となり、容積率を増やした効果が落ちる。
便利な東京で新しいビルが安い賃貸料で供給されれば、周辺県や地方のオフィス需要を吸収する。その結果、周辺県などでは地価の下落に歯止めがかからない。東京のカンフル剤のうち過ぎの副作用が懸念されているのだ。
日本は人口減少社会への入り口に立っている。中期的に見たときにオフィスやマンションの需要が減少に向かうのは確実で、全国の地価はなお下がり続ける。再開発マジックにそれを阻止するだけの力はない。
(編集委員 太田康夫)
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